「有限会社」という会社形態があったことすら今の若い方は知らないかもしれません。
平成18年の改正会社法施行までは、株式会社などの会社形態の一つとして「有限会社」が認められていました。
株式会社が1000万円の資本金が必要な時代に、300万円の資本金で設立ができること、役員の任期がなく、決算公告義務もないので株式会社と比較してランニングコストを圧倒的に抑えることができるとして人気でした。
また、「有限会社」という商号そのものにも一定のステータスがあったのも人気の理由です。
当時、ある司法書士兼行政書士事務所に勤務していた私は、有限会社を作ることができる”最後の日”を経験しています。
”会社を作る”とは、技術的には会社設立の登記申請書が登記所に受け付けられる日を意味しています。
電子申請の場合には、申請ボタンを押した日ですが、書面申請と呼ばれる紙の申請書の時代は登記所の窓口に申請書を提出する方式です。
今でもこれは変わりません。
申請書一式を窓口に提出するので、人が登記所まで動いて申請しますよね。
ということは、登記所まで動く人がいなければ申請できません。
人が多ければ多いほど、多くの申請が出せます。
有限会社を作ることができる最後の日までに申請した人は、「有限会社」という会社の商号が得ることができず、当時、”もう有限会社を作ることが出来ないらしいよ”ということが一般に伝わっていたため、駆け込みで有限会社を作る人が急増しました。
駆け込みで、というのは、何でもいいからとりあえず有限会社を作る、ということ。
忙しかったなあ。
法務局の”営業時間”内に登記申請書を提出しなければ、二度と有限会社の名前を手に入れることが出来ません。
受任した以上は、”登記所に間に合いませんでした”では、よほどの問題ない限り責任問題になりますし。
とりあえず有限会社を作りたい、というのはそれだけ、有限会社●●という商号が貴重だったから。
有限会社終了の代わりに、ほぼ同じような「合同会社」が用意されているとはいえ、当時は、その合同会社が何ものかー制度上という意味ではなくーがわからない状況でしたらし、何より株式会社と並ぶステータスがある有限会社が作れなくなるという焦りの方が大きかったと思います。
”最終日”のミッションを終えたあとは、事務所の皆さんでお疲れ様と。
今でも会社設立をご依頼される方の中には、”有限会社がいい”というのも稀に聞くのですが、制度上、もう絶対に無理ですしね。
当時、先見の明があって、何でもいいから有限を作っておこうという決断をされた方には、ほんと良かったですよね、と言いたい。
有限会社という商号は二度と作ることが出来ないため、その”有限会社”という商号が欲しいという方は今でも一定程度存在します。
会社売買という手段で譲り受けることで、有限会社という商号の会社を実質自分のものとできるため、最終日までに有限会社を作ることができる方は、会社そのものを高く売ることが出来るかもしれないという”権利”をも保有していることになります。
先ほど先見の明、と書きましたが、法改正という外部環境の変化に敏感であれば、ビジネスチャンスをつかむ事ができるのは間違いありません。
有限会社関連は会社法の改正ですが、皆さんそれぞれの事業分野を取り巻く法律や制度の改正に常にアンテナを張り巡らせておくことがビジネスにとっても大切なことなのです。
行政書士阿部隆昭