ローマ字表記での姓名の順は,今まで「姓―名」と「名―姓」の両方が使われてきました。例えば,パスポートでは「姓―名」(全部大文字)の順です。諸外国の日本文学研究で「夏目漱石」といった文学者名を引用する場合,「Natsume Soseki」のように「姓―名」の順が一般的です。
一方,ビジネスの世界で使われる名刺では,「名―姓」の順を使う人が多いようです。また,データベースなどで氏名をソート(五十音順などに並び替えること)するときに,ローマ字表記を振ったりすることがありますが,このようなときは,「姓―名」だったり「名―姓」だったりします。
なるほど!
確かに以前の私の名刺もローマ字表記を入れていたときもあって、それは「Takaaki abe」となっていました。
名刺やパスポートは,相手に理解してもらうためのコミュニケーションの道具です。このようなものに氏名をローマ字表記するのは,主として日本人を想定したものではありません。ですから,ローマ字表記での「姓―名」の順の問題は,「姓―名」の表し方についての相手の文化や社会の事情などに配慮する必要があります。欧米などのように自分の氏名を「名―姓」の順で表すことが一般的な国もあれば,韓国や中国などのように「姓―名」の順の国もあります。また,これまで多くの日本人がローマ字表記で「名―姓」を使ってきたという慣習がありますので,この慣習を理解してきた相手への配慮も必要です。
このような状況を踏まえて,第22期国語審議会では,ローマ字表記での姓名の順の問題を取り上げました。「国際社会に対応する日本語の在り方(案)」(2000年12月)では,言語や文化の多様性を人類全体が意識し,生かしていくべきであるという立場から,一般的には各々の人名固有の形式が生きる形で紹介・記述されることが望ましいと述べられています。
そして,日本人のローマ字による姓名の表し方は,「姓―名」の順(例えばYamada Haruo)とすることが望ましいとしています。
ただし,これまでの慣習を急に変えることで相手が誤解する恐れがある場合は,姓をすべて大文字とする(例えばYAMADA Haruo),姓と名の間にコンマを打つ(Yamada,Haruo)などの方法で,「姓―名」の構造を示すといった配慮が必要であるとしています。