──その“見えない配慮”が経営の質を変える
「立地は、ビジネスの成否を決める。」
そう信じて疑わない経営者は、今も多いかもしれません。
特に実店舗を運営する場合、「駅から近い」「人通りが多い」「視認性が高い」ことは、鉄板の条件とされてきました。
でも──あえて「それを選ばない」という経営判断があるとしたら?
今日は、静かだけれど本質的な選択について、お話ししたいと思います。
◆ 好立地=正解?その陰にある「顧客の負担」
実は最近、ある施術系のサロンの経営者と話す機会がありました。
その方は、あえて駅近を避け、住宅地の一角にサロンを構えているとのこと。
理由を尋ねてみると、こんな言葉が返ってきました。
「うちのお客様は車で来る方が多くて。
駅前だと、コインパーキング代があまりに高すぎるんです。」
なるほど、たとえば都心の駅前には「10分200円」なんてパーキングも珍しくありません。
仮に施術時間が1時間だとして、前後の準備や余裕も含めて3時間滞在すれば、駐車代だけで3,600円。
これって、施術料金と比較しても無視できない負担。
しかしこの“移動コスト”、経営側、サービスの提供者側が意外と見落としがちなのです。

◆ 顧客離れの真因は、立地の中にあるかもしれない
サロンやサービスの内容には満足していても、
「行くのに疲れる」「駐車場代が高くて毎週は行けない」
そんな小さな不満が、いつの間にか「足が遠のく」理由になっていく。
つまり、リピートのハードルは“サービス以外の要因”に潜んでいることがあるんですね。このあたりが、サービス提供者側が気付きにくボトルネック。
実際、私も「いいお店なんだけど、行くのが面倒で…」という理由で通わなくなった場所、いくつかあります。
◆ あえて駅から離れるという「逆転の発想」
その経営者は、こう続けました。
「お客様が“通いやすい”って、駅から近いことじゃないんです。
“気を遣わずにいられるか”なんですよね。」
そこで、あえて人通りの少ない住宅街の一角を選んだのだそうです。
結果として、静かで落ち着いた空間になり、車で来る方も安心して滞在できる。
そして何より、「お客様が気兼ねなく過ごせる」。
この判断には、「誰にとっての便利さか?」という問い直しがあります。
◆ 経営とは「配慮の設計」である
私はこの話を聞いて、ふとこう思いました。
「経営とは、見えない配慮をどう構造として組み込むかだ」と。
よく言われる立地条件は、マーケティング上の“正解”かもしれません。
でも、それが本当に“あなたの顧客”にとっての正解とは限らない。
むしろ、静けさや余白、気を遣わずにいられる感覚が、
商品そのもの以上の満足度を生んでいることもあるのです。
◆ 「見えない負担」を取り除く経営へ
私たちはつい、「どう見えるか」「どれだけ目立つか」という表層に意識を向けがちです。
でも本当に大切なのは、「どう届いているか」「どれだけ安心して使えるか」という、体感レベルの経営視点ではないでしょうか。
立地に限らず、価格・導線・言葉の選び方──
そこに潜む「見えない負担」をひとつずつ取り除くことが、
顧客との信頼を少しずつ育てる“静かな経営”なのかもしれません。
◆ まとめ:「選ばない」ことで届けられる価値
経営判断には、数字に出るものと、出ないものがあります。
好立地を選ばないという決断は、後者かもしれません。
でも、それによって得られる“長く続く関係性”は、数字以上の価値を持ちます。
「来てくれる人が、来やすくなる」
それだけのことに、私たちはもっと敏感になっていい。
今日のこの話が、あなたの事業や店舗設計、導線づくりのヒントになれば嬉しいです。
