
永住許可申請において、原則10年の在留期間を半分の5年間に短縮できる特例の一つが「我が国への貢献」要件。
外交、社会、経済、文化等の分野において我が国への貢献があると認められる者で、5年以上本邦に在留していること
https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan50.html
この特例を使うことは、「単に長く住んで、真面目に仕事をしている」といった事情では実現しません。法務省が考える「貢献とは何か」といった深い理解が必要になります。
そこで、法務省が公表した38の許可事例と12の不許可事例を、行政書士阿部総合事務所が実務視点で徹底的に類型化しました。何が「貢献」と認められ、何が「不十分」と切り捨てられるのか。その境界線を詳細に解説します。
前提として、この資料の位置付けですが、「永住許可の一般基準」ではなく、“我が国への貢献”を理由に永住許可申請がされた案件のうち、許可・不許可になった“事例集”です。また、冒頭に、規制改革の流れの中で 許可要件の予見可能性を高めるために事例を公表する趣旨が明記されています。さらに、タイトルどおり “平成18年1月1日現在” の情報なので、現行運用を断定する根拠として使う場合は注意が必要です
1. 「我が国への貢献」による永住許可の基本構造
永住権の審査には「素行善良」「独立生計」「国益適合」の3要件がありますが、本特例はこのうち「国益適合」の中の「在留期間」を特例的に短縮するものです。
5年短縮特例の対象分野
- 学術分野: 研究者、大学教授など
- 経済分野: 企業の経営者、IT技術者、先端産業の貢献者
- 文化・芸術分野: 作家、音楽家、伝統文化の継承者
- スポーツ分野: 選手、コーチ
- その他: 社会、外交分野での功績者
2. 【許可事例:全38例】分野別の類型化
許可された38の事例を、その性質ごとに5つのカテゴリーに分類しました。
類型[A]:学術・研究分野における顕著な功績
この類型では「論文の数」と「その社会的影響力」がセットで評価されます。
| 事例番号 | 許可の決め手となったポイント | 在留歴 |
| 事例1 | 科学技術誌への論文数十本発表。科学技術向上への具体的貢献。 | 9年5月 |
| 事例9 | 国際会議での招待講演。国内企業・研究所との共同研究実績。 | 7年9月 |
| 事例15 | 物理学の研究成果が学術誌に多数掲載、かつ研究指導も実施。 | 11年2月 |
| 事例19 | 生物学研究の成果が、理論だけでなく「実用面」で利用されている。 | 10年10月 |
| 事例21 | 医療関係の研究で、関係機関からの「表彰」を受けている。 | 9年8月 |
| 事例23 | 先端技術の研究成果が、国内外の学術誌・学会で高く評価。 | 8年3月 |
| 事例25 | 整形外科学。著名専門誌への引用(被引用数)が評価。 | 13年4月 |
| 事例27 | 独立行政法人等の公的機関での研究活動。多数の論文発表。 | 6年 |
| 事例29 | 磁性薄膜分野。論文だけでなく「特許出願」を伴う実績。 | 8年8月 |
| 事例30 | 民間企業の社員ながら、学会で表彰・権威ある賞を受賞。 | 10年4月 |
| 事例33 | 自動車生産会社勤務。粉末冶金関係の論文と、権威ある協会からの表彰。 | 8年6月 |
| 事例38 | ナノテクノロジー等の最先端分野での独自研究成果の発表。 | 8年8月 |
類型[B]:高等教育(大学等)への貢献
単に教壇に立つだけでなく、教育システムの維持や向上への寄与が見られます。
- 大学教授・助教授・講師クラス:
- 事例3: 大学教授。無償でアマチュア演奏家を指導する社会的活動。
- 事例5: 長期間(7年)の大学教授勤務。
- 事例11・12: 大学講師・助教授。外国語教育の水準向上や「入試センター試験」への参画(事例12)。
- 事例13・14・16・17・18: 各種専門分野(IT、国際法、国際政治、教育学、神経心理学)における長年の高等教育実績。
- 事例20: 教育に加え、研究分野でも国内外で高い評価。
- 事例26: 農業分野の高等教育+著名外国雑誌への論文掲載。
- 事例28: 独自の語学教授法を開発し、教科書の編纂や講師の教育にも従事。
- 事例31・32・34・37: 概ね7年〜18年の在留を経て、高等教育の安定に寄与。
類型[C]:文化・芸術・社会貢献
数値化しにくい分野ですが、公的な勲章や地方振興がキーワードです。
- 事例4: 日本文学研究者。「勲三等旭日中綬章」などの受章(圧倒的評価)。
- 事例24: 英語教育の傍ら、地方の方言や伝統楽器を用いた活動を通じて、日本文化を国内外へ広めるユニークな貢献。
類型[D]:スポーツ振興
「日本代表レベル」または「その育成」への寄与が重視されます。
- 事例2: アマチュア選手としての活躍、W杯出場、指導者としての貢献。
- 事例35: オリンピック選手のコーチ、および次期五輪候補の育成。
- 事例36: 20年間にわたる競技生活と、権威ある協会からの表彰。
類型[E]:経済・産業・外交
- 事例7: システム開発の中心的役割。日本のIT産業への具体的実績。
- 事例8・22: 在日外交官としての長年の勤務。国際交流への寄与。
3. 【不許可事例:全12例】「貢献」と認められない落とし穴
不許可事例は、申請者が「これくらいならいけるだろう」と考えがちなポイントを鋭く突いています。
類型[F]:在留期間の絶対的な不足(事例1)
- 内容: 日本産競走馬の輸出や経営コンサルで実績があったが、在留期間が1年半。
- 解説: どんなに顕著な貢献があっても、「原則5年」の在留歴がなければ、この特例は適用されません。
- 注:現在は「高度専門職ポイント」による1年・3年ルートが別にあるため、そちらの検討が必要になります。
類型[G]:活動が「一般的」または「通常の範囲内」(事例3, 4, 6, 11, 12)
- 事例3・4: 外国人学校の教師や、高校での英語教師・ボランティア。
- 事例11・12: 大学の医学部助手(5年)や、中学校・高校での語学指導助手(ALT)。
- 不許可の理由: これらは「その在留資格(教育や技人国)」で認められた通常の活動範囲であり、日本全体や高等教育全体の水準を飛躍的に向上させる「顕著な」貢献とはみなされません。
- 事例6: 大学院の研究生。
- 不許可の理由: 「指導を受ける学生」の立場であり、貢献する側の主体とは認められません。
類型[H]:役職や看板だけで「中身」が伴わない(事例5, 7, 8)
- 事例5: 会社経営。投資額や利益額が「顕著」ではない。
- 事例7・8: 企業の「課長相当職」や「課長補佐相当職」。
- 不許可の理由: 単なる社内での出世や一般的な会社経営は、経済・産業への「貢献」には該当しません。特許の取得や、革新的な技術導入などの具体的な成果が求められます。
類型[I]:主観的な交流活動(事例9, 10)
- 内容: 作曲活動、企業交流イベントの実現、芸能人の海外公演の実現。
- 不許可の理由: 民間レベルの交流や個人の創作活動だけでは、国益に資するほどのインパクトがないと判断されます。
類型[J]:素行に問題がある場合(事例2)
- 内容: 画家として実績があり寄贈の意向もあったが、過去に「不正な在留に関与」していた。
- 解説: 「貢献」以前に、永住要件の第一歩である「素行善良要件」を満たせません。
4. 「これからの永住審査」
入管庁は“我が国への貢献”を理由とする永住許可について、許可・不許可の具体例を公表しています(平成18年1月1日現在)。そこでは、研究論文・受賞歴・国際大会実績・大学での教育実績など、第三者が確認できる客観資料に支えられた貢献が許可側の中心に並び、単なる就労実績や主観的な交流活動だけでは足りない例も示されています。
公表事例は平成18年当時のものですが、2026年以降の永住審査はこれ以上に「公的義務の履行」に対して厳格になると想定されます。
現代の審査で加味される「プラスアルファ」
- 年金・税金の納付を忘れている: 「貢献」に該当する学術論文があっても、社会保険料等の支払いに遅れがあれば不許可の可能性が高まります。
- 高度専門職(HSP)ポイントとの関係: 現代では「貢献による5年短縮」よりも、HSPポイントによる「1年・3年短縮」の方が予見可能性(許可の予測しやすさ)が高くなっています。
- 身元保証人の適格性: 貢献が認められるレベルの申請者には、それに見合う社会的地位のある身元保証人が求められる傾向にあります。
永住申請は、あなたのこれまでの日本での「足跡」が全て審査される厳しい手続きです。永住権の審査の「素行善良」「独立生計」「国益適合」という三つの要件は、どのような人材が永住者として相応しい、と国は考えているのかを端的に示しています。
行政書士阿部総合事務所では、企業に勤務している技術・人文知識・国際業務ビザの優秀な人材が永住権の取得申請をサポートしています。これは、中小企業支援を主力業務としている弊所としては、企業の持続的な成長に必要な人材のライフプラン全体を支えたいという弊所の企業理念に基づいています。永住権取得は、外国人社員の日本への定着率を高め、企業にとっては長期的な経営戦略の安定に直結します。
永住権の申請の前段階から相談に応じますので、それらの人材を雇用されている企業様はぜひご相談ください。
行政書士阿部総合事務所 行政書士阿部隆昭




