はじめて救急車に乗った。
横座りになっていると、運転席の窓からちょっとだけ風景が見えた。
やけに遅い。サイレンの音は聞こえるし、走ってはいるはず。
きっと時間そのものがスローになっているに違いない。
そう思った。
「止まってください!、止まってください!」
「救急車通ります、止まってください」
救急隊員の方が連呼しないと止まらない歩行者、車。
”そんなにすぐに止まることなんて出来ないし、自分一人ぐらいいいだろう”
お願いだから、止まってくれ。
とにかく通してくれ。
頼むから足を止めてくれって。
としか思えなかった。
初めて救急車に乗っている側の気持ちが分かった。
命のゆらぎを巡って争っているその一秒は、おそらく横断歩道を元気に歩いている人の一秒よりは大事なはず。
何をどうしてほしい、とも特段思わないけれど。
今度、緊急車両に遭遇したときには、妨げるような動きだけは絶対にしないと決めた。