よくあることです。
講座などで話題に出すことが多いのですが、一生に一度あるかないかの不労所得の機会をめぐって相続人たちは本性を現します。
通帳を隠す-通帳を隠しても意味がないのですが...-なんてことは割りと普通に聞く話です。
お恥ずかしい話、私の実家の相続でも同じようなことがあったと亡き母から聞いたことがあります。
相続人としては、通帳にいくら入っているのがとっても気になるところ。
金額が分からければ遺産の総額を確定することも出来ず、遺産分けの話し合い(正確には「遺産分割協議」と言います)だって進みません。
でも、隠したがるんですよね。
相続人のあなたとしては、執るべき有効な手段が一つありまして。
金融機関に対して取引履歴の開示請求を行えばよろしい。
お父さまが取引していた銀行に出向いて(金融機関によって取り扱いが異なるとは思いますが、極端に遠いといった特別の事情がない限り郵送による手続は不可だと思われます)、取引履歴(取引経過)の開示請求をしたいと申し出てください。
営業担当の方が手続について詳しく教えてくださるでしょう。
預金者であったお父さんと開示請求する人の関係が分かる戸籍謄本等も必要になります。
さて、問題になるのは実はここからです。
通帳を隠している相続人、あなたにとって弟としましょう。
弟を含む相続人全員の印鑑がないと金融機関に対する取引履歴の開示請求が出来ないとしたらどうでしょう?
全くの手詰まりになります。
なぜかって、通帳を隠している弟が開示請求の手続に協力などしてくれるはずもないからです。
実は、この点をめぐって裁判になっています。
最高裁まで争っています。
共同相続人は、単独で被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を行使することが出来る (最判平21,1,22)
用語が難しいので解説しますね。
「被相続人」というのは、亡くなってしまった人のこと。
今回は、お父さんです。
「共同相続人」というのは、法律上の相続人の全員。
今回の事例に当てはめて極端にくだけた言い方にすると、こうなります。
お父さんの相続人であれば、弟さんの協力なしに一人でもお父さん名義の預金口座の取引経過を見せてくださいって言えますよ。
預金口座の中身ってよく考えれば大切な情報ですよね。
相続人全員が一緒になって見せてくれ!という手続きではなくて、
なんで?一人から請求できてしまうの?って思うかもしれません。
理由は知らなくても全く困ることがないので参考程度に書いておくとですね。
これって、講学上、「保存行為」と呼ばれる行為です。
”皆の利益になることなんだから一人からやってもいいじゃん。”
簡単にいうとそんな感じ。
難しく言うと、
預金契約上の地位が準共有されているので、各相続人は保存行為として取引経過の開示請求が出来る。
ここまでで覚えておいて欲しい知識は二つだけ。
1.銀行口座の取引経過は開示請求することができる。
2.相続人の一人からでも開示請求はできる。
「自分には関係ない話しだわ」、なんて思わないで知識だけは持っておくといいですよ。
お友達や知人が相続でトラブルを抱えていたときでも、あなたのちょっとしたアドバイスによって救われるかもしれません。
”◯◯出来るらしいよ”程度でいいんですよ。
正確な知識は専門職に委ねるとしても、「選択肢がある」という事実を知るだけで人は前を向けるものです。
行政書士阿部総合事務所
行政書士阿部隆昭