要旨
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83520&hanreiKbn=02
判決(決定)PDF
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130904154932.pdf
民法や資格試験を受験されている方にとっては勉強になる判決。
この国の相続制度の変遷なんかも書かれているので興味深いです。
ただ、いかせん長めなので本判決の趣旨がわかるように抜粋して赤字部分だけでなんとかわかるようにしてみました。
①相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。
※↑相続制度の設計は、伝統や社会、国民感情を考慮する必要があると言っています。
②さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における
婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。
※↑家族に対する国民の考え方、婚姻や親子に対する意識も考慮しなければならないと。
③法律婚主義の下においても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどのように定めるかということについては,前記2で説示した事柄を総合的に考慮して決せられるべきものであり,また,これらの事柄は時代と共に変遷するものでもあるから,その定めの合理性については,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され,吟味されなければならない
※↑嫡出子と非嫡の法定相続分は時代と共に変遷する国民感情や国民の意識、社会などといったことを考慮し、合理性については憲法に照らして検討しなければならないと
④前記2で説示した事柄のうち重要と思われる事実について,昭和22年民法改正以降の変遷等の概要をみると,次のとおりである。
ア 昭和22年民法改正の経緯をみると,その背景には,「家」制度を支えてきた家督相続は廃止されたものの,相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風や,法律婚を正当な婚姻とし,これを尊重し,保護する反面,法律婚以外の男女関係,あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたことがうかがわれる。また,この改正法案の国会審議においては,本件規定の憲法14条1項適合性の根拠として,嫡出でない子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げられており,現行民法に本件規定を設けるに当たり,上記諸外国の立法例が影響を
与えていたことが認められる。
※↑昭和22年の民法改正当時は、非嫡に対しての差別意識があった。また、日本が参考にしていた外国でも相続分に差異があった。
⑤しかし,昭和22年民法改正以降,我が国においては,社会,経済状況の変動に伴い,婚姻や家族の実態が変化し,その在り方に対する国民の意識の変化も指摘されている。すなわち,地域や職業の種類によって差異のあるところであるが,要約すれば,戦後の経済の急速な発展の中で,職業生活を支える最小単位として,夫婦と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに,高齢化の進展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり,子孫の生活手段としての意義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。
※↑時代と共に国民の意識が変化。それに伴って相続財産の持つ意味も変化してきた。
⑥平成期に入った後においては,いわゆる晩婚化,非婚化,少子化が進み,これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加しているとともに,離婚件数,特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増加するなどしている。これらのことから,婚姻,家族の形態が著しく多様化しており,これに伴い,婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいることが指摘されている。
※↑平成になってからは、晩婚化、非婚化が進む。国民の意識が多様化。①②等で相続設計は、国民意識等を考慮しなければならないと言ってきた。それが昭和22年当時の国民意識と平成になってから国民意識とは違うんだと言っている。
⑦イ 前記アのとおり本件規定の立法に影響を与えた諸外国の状況も,大きく変化してきている。すなわち,諸外国,特に欧米諸国においては,かつては,宗教上の理由から嫡出でない子に対する差別の意識が強く,昭和22年民法改正当時は,多くの国が嫡出でない子の相続分を制限する傾向にあり,そのことが本件規定の立法に影響を与えたところである。しかし,1960年代後半(昭和40年代前半)以降,これらの国の多くで,子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平等化が進み,相続に関する差別を廃止する立法がされ,平成7年大法廷決定時点でこの差別が残されていた主要国のうち,ドイツにおいては1998年(平成10
年)の「非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律」により,フランスにおいては2001年(平成13年) の「生存配偶者及び嫡出子の権利並びに相続法の諸規定の現代化に関する法律」により,嫡出子と嫡出でない子の相続分に関する差別がそれぞれ撤廃されるに至っている。現在,我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けている国は,欧米諸国にはなく,世界的にも限られた状況にある。
※↑日本の立法に影響を与えた諸外国の法律も時がたつにつれて変化してしまい、嫡出子と非嫡出子とに差がある国は限られたものになってしまった。
⑧しかし,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の合理性は,前記2及び(2)で説示したとおり,種々の要素を総合考慮し,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし,嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であり,法律婚を尊重する意識が幅広く浸透しているということや,嫡出でない子の出生数の多寡,諸外国と比較した出生割合の大小は,上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。
※↑相続設計は国民の意識を考慮せねばならないと言ったものの、相続分の定めそれ自体は法的問題であり国民意識がどうとか、外国の状況がどうとか、そんなことではなく憲法に照らして判断するべき事項であると。
⑨しかし,昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の
変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。
※↑国民意識の変化などは直ちに結論に結びつくものではないと⑧で言ったものの、個人の尊重がより明確に認識されてきた等の事情を総合的に考慮しなければならない。
そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。
長いことお付き合い頂きありがとうございます。
赤い文字にポイントを置きながら黒い文字をさらっと読んで、緑の文字も読みながらだとなんとなく今回の判決にいたるまでの考え方が見えてくるような気がしませんか。
報道関連リンク
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130913/trd13091313570015-n1.htm
http://news.mynavi.jp/news/2013/09/12/052/
http://mainichi.jp/select/news/m20130904k0000e040250000c.html