筋トレしないジム?“羞恥回避型セルフメンテ空間”という新設計
── 無人×低価格×「なんとなくの改善」でユーザー心理を刺激する空間設計(※筆者体験に基づく私見です)
■ 「近くて安い」の正体は、羞恥心からの避難所だった
都市部にある話題の無人セルフ型ジム。格安料金がウリ、24時間営業、完全無人。無料体験を行っており、一度は足を運んでみたいと思っていました。フィットネスジムから想像される空間とは異質なものがそこにありまして。
そこには、筋トレ音もインストラクターの掛け声もなく、代わりに漂っていたのは、無音の空間と“誰にも干渉されない”という静かな解放感。
オープンロッカーを見ると、4人ぐらいは店内にいるはずですが、どこにも姿はありません。その時点で謎の空間です。

■ ジムという名の羞恥心処理施設
フィットネスクラブというと一般的には、「自身が変わるために頑張る場」であり、その頑張りを共有することにおいてもモチベーションを保つという設計でした。
しかし、今の時代、人々はこう感じているのかもしれません。
- 「誰かの視線がしんどい」
- 「自分だけやり方を知らないのが恥ずかしい」
- 「トレーニングより、まず“整った風”になりたい」
つまり、現代のセルフジムとは、羞恥心に晒されずに“行動してる風”を得る場所であり、「がんばる場」ではなく「気を抜ける場」になっているのでは?というのが、私の体験から得た仮説です。
■ 経営メタファー:あなたの会社は「羞恥心処理」できていますか?
この空間設計は、実はビジネス経営にも通じると感じました。
今の顧客が欲しているのは、「完璧な製品」や「最高の機能」ではなく、間違えることに対する寛容なフィールドなのではないでしょうか?
どこにも正解がないVUCA時代、人は行動よりも“行動しても叩かれない空間”を求めています。
- チームミーティングで「知らない」と言える雰囲気があるか?
- 顧客が「わからない」を口に出せるサービス設計か?
- 評価よりも試行錯誤にリソースが割かれているか?
もし答えがNOなら、あなたの組織は「旧式ジム」になっているかもしれません。
■ 感情インフラとしての新空間
体験してみて印象的だったのは、以下のような利用者行動です:
- 入室してすぐ退出する(達成感だけ得る)
- トレッドミルより美容機器に直行
- マシンに座りスマホだけ見て退出
こうした行動を揶揄するのは簡単ですが、実は非常に現代的なニーズが隠れていると感じました。
それは、「変化を望むけど、変わる勇気が出ない人」への、安全な第一歩。
自己改善の導入ハードルが年々上がるなか、“恥をかかずに始められる空間”は、もはや社会インフラに近い存在かもしれません。
■ 「羞恥心回避設計」の経営応用
以下の設計思想は、どんな業種にも応用できると感じました:
- マニュアルではなく直感的導線:QRコードの読み取りだけで使い方がわかる設計
- 非言語による共感:インテリアやBGM、照明が「語らずとも意図が伝わる」状態
- 成果ではなく“関与感”の提供:「やった気」が残る工夫
このような工夫により、ユーザーの羞恥心を「乗り越える」のではなく「そもそも感じさせない」方向へ誘導することができるのではないでしょうか。
■ 終わりに:成果主義から“存在主義”へ
このジムが人気を集めている本当の理由は、筋肉ではなく、「気分」のメンテナンスが主役だからだと感じました。
人は、何かを“しているフリ”でも、自分を少し好きになれる。
これは、努力をしないという話ではありません。努力することにすら羞恥が伴う時代に、まずは存在そのものを受け止めてもらえる場が求められているということです。
サービスも組織も、顧客も社員も、「羞恥を回避しながら自己肯定できる場所」としての再設計が求められていると感じました。
このような“羞恥心ケア型自己改善ステーション”は、今後あらゆる分野で展開されていくかもしれません。
- オンライン学習:誰にも見られず復習できる
- ファッション試着:アバターでの仮想試着
- 食習慣の改善:一人用デリバリー+記録アプリ
人が“変わりたい”と感じたとき、その最初の一歩は「誰にも見られずにできる」こと。
あなたの事業は、「成果を出せる場」ではなく「存在が許される場」になっているでしょうか?
それが、次の時代に選ばれるブランドの条件になるかもしれません。
行政書士阿部総合事務所 行政書士阿部隆昭