一通のLINEが残した違和感
先日、久しぶりの知人からLINEが届いた。
彼は、以前ビジネスや趣味で関わっていた仲間で、Web制作を軸に活動している。
そんな彼からのメッセージは、こう始まっていた。

「Web制作の延長でAIを活用したビジネスを始めました。
その一環として、Kindle出版サービスを立ち上げ、僕自身も新しい本を出版しました。
タイトルは『●●』。
出版記念キャンペーンとして、7/10の21〜22時にポチッと購入してくれると嬉しいです。99円です。」
一見、よくある告知メッセージ。
「ふむふむ、頑張ってるな」「99円なら買ってもいいか」──
そんな反応をすることもできたはずなのに、返信の手が止まりました。
むしろ止まったまま、何も返さないという選択。
その理由は、金額の問題でも、内容の問題でもない。
もっと根源的な、“存在の重さ”の問題でした。
「集大成」と「1週間」は両立しない
LINEにはこうも書かれていた。
「出版のノウハウを詰め込んだ、僕の集大成となる一冊です。
構想、企画から出版手続きまで、約1週間ほどで完成しました。」
この一文を読んだ瞬間、僕の中の何かが静かに拒否反応を起こした。
「集大成」──
それは、長い時間をかけて培ってきた経験や思索、悩みや挫折の蓄積。
魂を込め、何度も推敲し、自分と向き合い続けた結果として生まれる“結晶”だ。
一方で「1週間で完成」は、どう頑張っても“軽さ”の象徴にしか見えない。
仮にそれがAIツールを駆使した合理化の成果であったとしても、
読み手の私に届くのは、「スピード感」ではなく「熱量のなさ」だ。
そのアンバランスさが、まるで「魂のない宣言」のように感じてしまった。
私は、言葉に“魂の重さ”を求めてしまう
ここで、改めて自分の感覚に目を向けてみる。
なぜこれほどまでに反応してしまったのか?
なぜ、「お、頑張ってるな」で済まなかったのか?
答えは、自分の中にある“存在層”にあると思っていて。
これは、私自身が日々の仕事や言葉に込めている「在り方の層」とでも言うべきもの。
「存在層」とは何か?
私が定義する“存在層”とは、以下のような領域だ。
● 行動や言葉の背後にある「動機」や「信念」
● 表現の“奥行き”をつくる、目に見えない内的な熱量
● 相手をどう見ているか、自分をどれだけ丁寧に扱っているか、という“在り方”の質
存在層は、マーケティングや営業のスキル、経営理念のロジックのさらに上位にある。
いわば、「この人は、どのレイヤーで生きているのか」を示す目に見えない振動だ。
私は、自分が関わる人・関わる言葉に、この存在層の響きを無意識に探している。
「ちゃんとやっていない」ことへの嫌悪感
その存在層のフィルターで今回のLINEを見たとき、
私の中にあったのは、明確な“違和感”というよりも「拒否」だった。
なぜ、事前に私のことを調べなかったのか?
なぜ、私がAIを扱っていることを知らずに「AIってすごいでしょ」と言ってきたのか?
なぜ、まるで見ず知らずの人に送るような一斉営業メッセージを、
「昔の仲間」だったはずの私に送ってきたのか?
そのどれもが、「ちゃんとしていない」と感じてしまった。
私にとって「ちゃんとする」とは、情報の正確性や文章の巧拙の話ではない。
相手に誠実であろうとする姿勢、関係性を踏みにじらない配慮、
言葉を発することの重みを知っているかどうか──それがすべてだ。
応援するという行為は、信頼の表明である
たとえ99円のKindleであっても、
それを「応援の気持ちで買う」という行為には、私にとって意味がある。
それは、
「あなたの在り方を信じています」
「あなたが差し出したこの言葉に、敬意があります」
という関係性への投票のようなものだ。
だからこそ私は、そのボタンを押すことができなかった。
ただ「軽い売り込み」に応じることが、
自分の存在層を裏切るように感じたからだ。
「反射」ではなく、「沈黙」を選ぶこと
本音を言えば、迷った。
「まあ、昔の仲間だし、99円で済むなら買ってあげようかな」と。
でも筆が進まなかった。
心が反応しないまま、言葉だけを出すことができなかった。
だから「沈黙」という選択をした。
それは、関係を切るための無視ではない。
ただ、自分が信じている誠実さの基準を、
自分自身の中で軽んじたくなかっただけだ。
──存在をこめて、言葉を差し出すということ
私は、言葉を仕事にしている。
そして同時に、「誰かの存在がこもった言葉」にだけ、本当の力が宿ることを知っている。
逆に言えば、存在を欠いた言葉──つまり“誰のためでもない、誰からも出ていない言葉”には、
いくら整っていても人の心は動かない。
今回のLINEは、そういう意味で「整ってはいるけれど、存在が感じられない言葉」だった。
だから私の心には届かなかった。
最後に──「存在層」が経営にもたらすもの

今回の「違和感」から始まった“存在層”の話は、単なる個人的な感覚に留まりません。実は、この「存在層」こそが、現代の経営において最も重要な土台の一つになっていると、私たち行政書士阿部総合事務所は考えています。
情報やツールがコモディティ化し、誰もがAIを使ってコンテンツを生成できる時代において、顧客や従業員、そしてパートナーが本当に求めるものは何でしょうか?それは、表面的な「情報」や「機能」だけではありません。
- 顧客の心をつかむブランド:単なる製品・サービスの機能だけでなく、企業が持つ「どんな想いで事業をしているのか」「社会にどう貢献したいのか」という存在層が、共感を生み、LTV(顧客生涯価値)を高めます。
- 組織のエンゲージメント:経営者が「どのレイヤーで生きているのか」という存在層が、従業員のエンゲージメントを左右します。言葉だけでなく、その背後にある「動機」や「信念」が伝わることで、自律的な行動と貢献が促されます。
- 選ばれるパートナーシップ:ビジネスにおける提携や協業においても、目先の利益だけでなく、互いの「在り方」や「誠実さ」という存在層が、長期的な信頼関係を築く鍵となります。
「集大成が1週間で完成した」という言葉が違和感を生んだように、経営においても、表面的な成果や効率化だけを追求し、その背後にある「魂の重さ」や「誠実さ」を軽んじてしまえば、いずれ顧客や市場から「反射」ではなく「沈黙」を返されることになりかねません。
私たちは、補助金申請支援においても、単に書類を作成するだけでなく、お客様の「事業への想い」や「未来へのビジョン」といった存在層を深く理解し、それを言葉として結晶化することを大切にしています。なぜなら、それが真に採択に繋がる事業計画であり、補助金をきっかけに事業を大きく飛躍させるための本質的な土台だと信じているからです。
もし今、あなたの事業の発信が「響かない」と感じているなら、あるいは組織や顧客との間に見えない溝を感じているのなら──それは、マーケティングや営業のテクニックではなく、「あなたが、どの層から言葉を出し、経営をしているのか」という、より深い問いを見つめ直す時なのかもしれません。
私たち行政書士阿部総合事務所は、これからも「存在層」を込めた言葉で、誠実に、真摯に取り組むクライアント企業様の「未来の実現」を伴走してまいります。