遺言書作成などの相続関連業務を18年もやっていると様々な珍しい事例に遭遇することがあります。
珍しい、といっても他の方に参考にならないかと言えば決してそうではありません。
例えば遺言書が無効になった事例を前もって知っておくことにより、”自分たちの家族ではそれをしないでおこう”という選択にもなりますよね。
いろいろな事例はあるのですが、今回は「お父さんの遺言書」をお嬢さんが夫婦が段取りしていた例を挙げましょう。
結論からいえば、お父さんの遺言書は作られませんでした。
遺言書は、遺言をする方の意思が最も尊重される。
当たり前のことを書きました。
ですが、これが分かっていない方が本当に多い。
ある相続コンサルティング会社にそそのかされたお嬢さん。
お父さんの遺産の相続対策には、お父さんに遺言書を書いてもらうことが必要だと言われています。お父さんは、コンサルティング会社の意のままになっているお嬢さんの言うことはずっと聴いていました。その件に関わっている専門職もコンサルティングとお嬢さんの意向は聴いていたのですが、肝心のお父さんの意思を確認することなく遺言書作成の日を迎えて関係当事者全員で公証人役場に向かうことになります。
公証人役場で作る遺言書では証人が二人必要です。
推定相続人(お嬢さんのように、お父さんが亡くなったとしたら相続人になる人)は証人になることが出来ません(民法974条2項)。
ですので、お嬢さんは遺言書を作る公証人役場の応接室に入ることが出来ません。コンサルティング会社も通常、遺言書の証人になることを嫌がりますので入ることはしません。
つまり、公証人と遺言書と部外者の証人2人の四人の空間になったときにお父さんの「反撃」が始まったのです。
公証人は、何よりも遺言をする人の意思を確認します。
専門家が作っていた遺言書の案文で本当に良いのか?
そもそも遺言を残す気持ちがあるのか?
どれほどお嬢さんに言われても、コンサルティング会社に言われても、その場には誰も居ません。
遠慮することなどこれっぽっちもありません。
なのでお父さんは自信を持ってこう言います。
遺言はしません。
実際にあった事例です。
お父さんはだまーって推移を見守っていたのです。
お嬢さんの気持ち、コンサルティング会社の戦略、何が損なのか得なのか。
当然なのですが、遺言は、遺言をしたいと思って初めてすることです。
誰かに強制されて遺言書を作るようなことがあってはなりません。
たとえそれが、親族だとしてもです。
お父さんの遺産相続を心配してコンサルティング会社に依頼するのは良いのですが、お父さんの気持ちを無視して遺言書を作り上げるようなことは止めましょうね。
こう書いておけば、うちの家族は万事うまくいくんだから
という気持ちもとてもよく分かるのですが、それもお父さんの気持ちがあってこそのものです。
お父さんに遺言書を作って欲しいと思っているお嬢さん、息子さんはコンサルティング会社の言うことを聞くよりもまずはお父さんのご意向を確認してくださいね。
行政書士阿部総合事務所 行政書士阿部隆昭