ウォルター・バジョットを知っていますか?
人生における大きな喜びは、君にはできないと世間が言うことをやることである。
これが原文です。
The greatest pleasure in life is doing what people say you cannot do.
小学校の卒業文集に始まり、まあ、僕らは何度も言われ続けているじゃないですか?
”お前、プロサッカー選手なんてムリだよ、アホちゃう”
とか
”ノーベル賞はさすがにとれないでしょ笑”
など。
一見、意趣返しのようにもとれる「名言」ですが、そもそもバジョットってどんな人だったんでしょうか?
『イギリス憲政論』は、君主制擁護論として、バークの『フランス革命の省察』に次ぐ、政治学の古典となっている。35歳から51歳で死去するまでの期間、『エコノミスト』紙の編集長を務めた。
経済誌の編集長の著作がなぜ政治学の古典となっているのか?
バジョットはどんな影響を与えたのかについては、一橋大学経済研究所 北村行伸先生の論文を読むと理解できます。
『ロンバート街 金融市場の解説』
バジョットはイングランド銀行が恐慌を食い止め、貸付によって恐慌を終息させるた
めの原則を二つ挙げている。これは今日ではバジョット・ルールとして知られているも
のである。
第一に、イングランド銀行は恐慌が起これば、自行の準備から自由に、そして積極
的に貸付けるべきであり、その貸付は非常に高い金利でのみ実施すべきである。高
金利の貸付は過度に臆病になっている人々に対しては重い罰金として作用するため、
貸付を必要としない人々からの融資申し込みの殺到を防ぐことができるからである。
第二に、この高金利の貸付は、あらゆる優良な担保にもとづき、また大衆の希望に
すべて応じられる規模で実施すべきである。この貸付の目的は不安の抑制にあり、
不安を生じさせるようなことは一切すべきではない。
2008 年のリーマンショック以来、先進国の中央銀行は、ある意味ではバジョット・ル
ールに則って、民間金融機関に資金を潤沢に供給し、それが金融パニックの波及を
阻止し、世界恐慌に陥るまでには至らなかったという経緯がある。しかし同時に、バジ
ョット・ルールのうち、高い金利で貸し付けるというルールは適用されておらず、その
結果、不必要な資金需要が生まれ、それが新興国の資産市場や先進国の商品市場
に流入している可能性が指摘されている。
バジョットが生涯ジャーナリストとして健筆をふるったことはすでに述べたとおりだが、
なぜ彼の著作が政治学や経済学の分野で古典としての位置を占めるようになったの
だろうか。他のジャーナリストや研究者とどこが違ったのだろうか。
政治家や作家の人物評伝を除けば、彼の関心は政治と経済の制度分析にあった。
凡庸な人間が制度について書くと、組織の規則や手続きについての解説が主となり、
はなはだ面白くない記述に終わることが多いが、バジョットはジャーナリスト的な嗅覚
と実務経験を踏まえて、制度の究極的な機能とその問題点をずばりと指摘し、その対
策を打ち出すという点において独特の問題把握能力があったと言える。すなわち、バ
ジョットの問題設定の適切さ、普遍性が、彼の著作をいつまでも新鮮なものにしてい
るのだと言える。
政治家を目指していたという記述もありました。
その名は貨幣経済学者や経済学史家について広く知られており、代表作の「ロンバード街」はあらゆる銀行関係文献において最も頻繁に引用される書物の一つである。
バジョットは政治家を目指していたが、指名されることもなく、また四回連続で当選することができなかった。しかしながら閣僚達に助言を与えることもしばしばあり、グラッドストンは彼のことを「控えの大蔵大臣」と呼んだこともある。
政治家になるなんて「君にはできない」と世間から言われていたことをもっての『名言』なのかどうか分かりません。
世間peopleがどうのこうのじゃなく、自分がムリだと思い込んでいたものがやれたとき、それが大きな喜びThe greatest pleasure になるんだろうと思います。
たぶん、その時には世間の評価なんてどうでもよくなっている、たぶん。
バジョットもそういった気持ちで言ったんでしょう、きっとね。