「介護実習で在留資格、条件付き、長期就労促す」という見出しで平成28年10月26日の日経新聞に外国人受け入れのニュースが載っていました。
最近、外国人介護人材に関する報道が多くなりましたし、25日の衆議院本会議で出入国管理及び難民認定法の改正案が可決されましたので国民の目に触れる機会も多くなるでしょう。
在留資格の問題は法律と実務が複雑に絡み合っており、私のような入国管理局申請取次行政書士でも分かりづらい問題がたくさんあります。
ですので、ニュース報道で外国人介護人材の話題になっても、ついスルーしてしまう気持ちもわかります。
このあたりで簡単に問題を整理してみたいと思いますね。
まず、日本は介護職にかかわる人が圧倒的に不足しているという現実があります。厚労省の試算では、2025年には38万人も不足するのです。
介護職のなり手が少ない日本人の代わりに外国人の労働力をアテにしようというワケです。
といっても、この介護人材の不足に対する取り組みは今に始まったことではなくて、すでにインドネシア、フィリピン、ベトナムとは経済連携協定EPAによって外国人介護人材の受け入れが始まっています。
でも、どうでしょう。
例えば、あなたが診てもらっている病院で、外国人らしき介護スタッフの方で見ますか?
見ないですよね。まだまだ数が圧倒的に少ないんですよ。日経の記事では、累計で3800人!
介護人材を外国人で補い、かつ、長期的に日本で働いてもらうには法律を改正して、介護実習が終わったあとも本国に帰るのではなく日本で働き続けてもらうことが必要。
「技能実習制度」は本来、日本で必要な技術を身に付け、その技術を本国のビジネスに活用してもらうための制度です。外国人の帰国が大前提なのです。
それをですね。
介護実習で入国したのに、本国に帰らずに日本で働いてもらうことにするわけです、制度上。
さて、
就労目的で日本に在留するには、法律で定めた在留資格を持っていなければ退去強制されます。
シェフの場合には、「技能ビザ」。
通訳の場合には、「人文知識・国際業務ビザ」
など、職種に適した在留資格の種類があらかじめ法律で決まっているので、勝手に在留資格を作り出せないわけです。
そこで、「介護」というビザを新たに創り出し、実習後も「介護ビザ」で日本に長期在留してもらうのが今回の法改正の狙いなのです。
なんとなく状況はおわかり頂けましたでしょうか?
介護現場で働く人が足りない→日本人では今後なり手が現れそうにない→外国人に長期間、介護で働いてもらいたい→しかし、そのための制度がない→法律を改正して外国人介護人材を長期的に受け入れるようにしよう。
これが現在の状況ですね。
おそらくニュースを読んでいる多くの方が、”私には関係ないね”と思われるかもしれません。
2025年、今から約10年後に介護認定を受けそうな年代、例えば今の50代後半の方々などは、いざ介護サービスを受けようと思ったら人材不足でサービスを受けられないという現実に直面するかもしれません。
あくまで試算ではありますが、予想されるのであればその対策を執っておくことは大切。
私が補助人としてご支援している高齢者の方はまだ介護サービスを受けていませんが、もうそろそろ検討段階です。成年後見の分野で言いますと、これからは市民後見人の役割も大きなものになります。私たち専門職だけではなく、地域全体で高齢者を支える社会がもう到来しているのです。
高齢者支援をしている者だけではなくても、外国人介護人材の報道は地域で暮らす私たち全体の課題にアプローチする大切な問題なんですよね。
行政書士阿部隆昭