📘 「選べる」が信頼を創る──新しい働き方をデザインする
「会社を辞めたいけど、辞められない…」。そんな不安が、これからは「もっと自分に合った会社を選べる!」という希望に変わります。
【連載 第2回】
これまでの技能実習制度では、本人の意思だけで働く場所を変えることは、ほとんど不可能でした。一度入った会社を辞めれば、帰国するしかない、という厳しい状況に直面することも。
新制度「育成就労」では、この**“職場変更の原則禁止”**というルールが大きく変わります。この変化は、単なる制度の修正ではありません。それは、働く一人ひとりが「自分の人生」を主体的に選ぶ力を手に入れる、大きな一歩です。そして、その自由が、会社と働く人との間に新しい信頼関係を築き直します。

## 縛りはもう、私たちを守れない
これまでの制度では、外国人材が自分の意思で仕事を辞めることは非常に難しく、会社からの一方的な解雇や、劣悪な労働環境に耐えるしかない状況が生まれていました。もし離職すれば、帰国か、あるいは不法な形で滞在せざるを得ない、という追い詰められた状況に陥る人も少なくありませんでした。
このような**「自由に移動できない」**という状態は、働く側にとっても、会社側にとっても、プラスにはなりません。なぜなら、そこには「この会社で成長したい」という前向きな気持ちよりも、「辞められないから、仕方なく働く」という義務感が生まれてしまうからです。多くの調査が、こうした環境では、本当に強い信頼関係は築けないことを示しています。
## 育成就労がもたらす新しい「選択の自由」
2027年から始まる育成就労制度では、皆さんのキャリアを自ら選択する力が制度として明確に認められます。
育成計画に沿って1~2年働いた後、自分の意思で別の会社へ**「転籍」**することが可能になります。もちろん、会社側の不正や倒産といった特別な事情があれば、もっと早く動くこともできます。
これは、外国人材が単なる「労働力」として扱われるのではなく、**「自分の未来を自分で決めることができる」**主体的な存在として尊重される、ということです。しかも、転籍先を探す際には、ハローワークなどの公的機関が皆さんのサポートをしてくれます。つまり、一人で不安な転職活動をするのではなく、制度がしっかりと皆さんの選択を後押ししてくれるのです。
## 転籍は、企業にとっての「成長のチャンス」
「自由に転職できるようになったら、人が辞めてしまうのでは?」と心配する企業の方もいるかもしれません。しかし、それは逆です。この転籍制度は、企業に「選ばれる努力」を促します。
- 賃金や待遇は透明ですか?
- 困った時に相談しやすい雰囲気ですか?
- あなたの日本語学習を応援してくれますか?
- 叱るのではなく、丁寧に教えてくれる上司はいますか?
こうした問いに胸を張って答えられる会社には、人は残ります。なぜなら、その職場には「ここで成長したい」と思える魅力があるからです。一方、働く人を大切にしない会社からは、自然と人が離れていくでしょう。
この新しい制度は、企業の「現場力」を試すもの。表面的な条件だけでなく、働きやすさや育成の中身で評価される時代がやってくるのです。
## 未来が見えると、人は強く、長く働く
育成就労制度では、3年間の経験を積んだ後、より専門的な知識を活かせる**「特定技能1号」へ、さらに「特定技能2号」へと、着実にキャリアアップしていく道が用意されています。特定の分野では、最終的に日本に無期限で在留する**ことも夢ではありません。
これは、外国人材にとって単なる「数年の出稼ぎ」ではなく、**「日本で自分の人生を設計していく」**という大きな希望となります。
そして企業にとっても、これは大きなメリットです。大切に育てた人材が、長期にわたって会社に貢献してくれる。教育への投資が、そのまま会社の成長につながっていく**「育てて得る」**という新しい雇用の形が生まれます。
## 今、準備を始める企業が未来を掴む
2025年春、日本政府は育成就労制度の基本方針を定めました。その内容は、この制度が単なる労働力の確保ではなく、**「人の成長を何よりも大切にする」**という強いメッセージが込められています。
- 語学力や技能が明確に評価される基準
- 頑張った人が報われる転籍の自由
- 働く人を守るための公的機関
- 悪質な仲介業者をなくす仕組み
これらはすべて、**「制度の信頼は、そこで働く人の信頼でしか成り立たない」**という哲学に基づいています。
この大きな変化にいち早く気づき、外国人材を大切に育てる準備を始めた企業や地域こそが、これからの時代に選ばれ、ともに成長していくことができるのです。
**「働く場所を、選べる社会」**は、働く人の権利を守るだけでなく、企業そのものの信頼と価値を高めます。
皆さんは、どんな会社で、どんな仲間と、どんな未来を築いていきたいですか?そして、企業の方々は、外国人材に「選ばれる会社」になるために、今、何を始めますか?
行政書士阿部総合事務所 行政書士阿部隆昭