公証役場で作成したとしても遺言能力を否定されて遺言が無効となる場合があります。
一般の方にとっては、公証人が関与しているのだから100%大丈夫と思っていても、後でひっくり返される事態になると大変です。
何が大変かというと、こういった争いになるときは遺言者が死んでしまっているので、遺言のやり直しが出来ないということ。
平成18年(ネ)第2271号 遺言無効確認請求控訴事件判決理由に秘密証書遺言の問題点が分かりやすく書かれていました。
秘密証書遺言につき,遺言能力の欠如及び方式違背による遺言無効の主張が退けられた事例
ことに原判決は,本件における最大の疑問点,すなわち,なぜ公正証書遺言ではなく,秘密証書遺言という稀な形式を選んだのかという点について全く判断していない。
オ秘密証書遺言も自筆証書遺言も,遺言内容を遺言者以外の者に秘密にするために用いられる方式であるが,自筆証書遺言は遺言者の自書が必要であるのに対し,秘密証書遺言は,遺言者が自書する必要がなく,遺言者が署名,押印さえできれば作成できる方式であるから,遺言内容を秘密にすることよりも,遺言能力に疑問があって,署名,押印しかできない者の遺言書を作成するために使用される危険のある方式である。また,公正証書遺言は,秘密証書遺言よりも無効となる危険が少なく検認手続も不要であるから,公正証書を利用できる場合には,公正証書遺言が選択されるはずであるのに,秘密公正証書遺言が作成されるのは,遺言者の署名,押印のみで足りることを奇貨として,遺言者の意思によらない遺言書が作成されている事実が存在することを推測させるものといえる。
なお,平成7年から平成17年度までの統計によると,秘密証書遺言が作成される件数は,公証役場における全遺言件数のわずか0.12ないし0.32%に止まる。
また,Cの遺言能力に疑問がなかったのなら,公正証書遺言か自筆証書遺言が採られたはずであるのに,秘密証書遺言の方式が選択されたのは,Cが口述不可能であったためである。したがって,本件遺言を行った事実は,Cが口述不可能で遺言能力を欠く状態にあったことを推認させるものである。
なお,D司法書士は,B公証人との事前面談で,Cは脳の手術を受けたことがあると説明したところ,同公証人は,Cと会うや,1分もたたない
うちに「難しいな」と発言したことからすれば,同司法書士は,公正証書遺言の作成を考えていたが,同公証人がCの遺言能力に疑問があるとして
公正証書遺言を作成できないと述べたため,作成経験のない秘密証書遺言の方式を選択したものと考えられる。
秘密証書遺言は文字を読むことができ、自分の名前さえ書ければ、ほかに文字が書けなくても、内容を誰にも知られないで遺言ができるという利点があるが、次のような問題点がある。証書の成立について争いが生じ易く、無効となる場合がある。すなわち遺言書が、公証人及び証人の面前に提出したという事実は、公証人の封紙に対するその旨の説明記載によって明白であるが、遺言内容は公証人も証人も見ていないし関与していないので、方式不備を生じ、また、内容の不明確を生じ、遺言者の真意が反映できず、結局内容に対して紛争が生じやすく無効となる場合もある。
Q
秘密証書遺言とはどのようなものですか? そのメリットとデメリットを教えて下さい。
A 秘密証書遺言は,遺言者が,遺言の内容を記載した書面(自筆証書遺言と異なり,自書である必要はないので,ワープロ等を用いても,第三者が筆記したものでも構いません。)に署名押印をした上で,これを封じ,遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上,公証人及び証人2人の前にその封書を提出し,自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し,公証人が,その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後,遺言者及び証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。
上記の手続を経由することにより,その遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを明確にでき,かつ,遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることができますが,公証人は,その遺言書の内容を確認することはできませんので,遺言書の内容に法律的な不備があったり,紛争の種になったり,無効となってしまう危険性がないとはいえません。
また,秘密証書遺言は,自筆証書遺言と同じように,この遺言書を発見した者が,家庭裁判所に届け出て,検認手続を受けなければなりません。