「すみません、仕事が忙しくて申請の準備ができませんでした。助成金は諦めます。」
そんなメッセージを受け取ったとき、 その言葉の端に触れた瞬間、心のどこかで違和感のスイッチが入ったのです。
言葉は丁寧。でもそこにあるのは、明らかに「選択の不在」。

「時間がない」という常套句
私たちは、つい、カジュアルに「時間ない」を使ってしまいますよね。補助金申請サポート業務に取り組んでいる中でも、登場回数が多い言い訳もこれ。
「時間がなくてできませんでした。」
一見もっともらしい。でも冷静に考えてみましょう。
電子申請システムは24時間稼働している。昼でなくても、夜中でも、休日でも作業は可能です。
実際に、日中は本業で忙しい経営者が、夜中に作業して申請を完了させた事例はいくらでもある。
つまり「時間がない」は事実ではなく、単なる言い訳。
正確には「時間をかける選択をしなかった」だけなんです。
やらないこと自体は「悪」じゃない
誤解して欲しくないのは、私は「やらなければならない」と言っているわけではありません。
やらないのも立派な選択です。
- 他に優先すべき仕事がある
- 体調がすぐれない
- 申請にかける工数と得られる効果を天秤にかけて割に合わない
どんな理由であれ、やらないと決めるのは自由。
ただし、そのときに大事なのは 「自分でそう選んだ」と胸を張れるかどうか です。
「逃げ」か「選択」かを分ける線
今回、とあるクライアント様とのやり取りで私が強く感じたのは、ここです。
- 「時間がなくてできませんでした」
- 「だからやめます」
これは一見、本人の決断に聞こえる。
でも実際は「外部環境のせいにして自分の責任を回避しただけ」。
これを「選択」とは呼べません。
呼べるのは「逃避」。
「選択」は、自分で選んだと自覚する勇気がある。
「逃避」は、他者や環境のせいにして、自分が主体である事実から目をそらす。
この違いは、人生のあらゆる場面で、効いてくると私は考えています。
電子申請が示すもの
そもそも補助金の電子申請が24時間可能なのはなぜでしょう?
ある一面をとりあげれば、それは「忙しい人でも自分のタイミングで取り組めるように」という制度設計の努力です。
制度を作る側だって「現場は忙しい」ことを理解している。
だからこそ、「環境がない」という言い訳を潰すためにシステムは整えられている。
つまり「時間がない」は、制度の仕組みを理解していないか、理解していても使わないか。
どちらにしても、逃避の構造は変わらない。
自分で選んだと、言えますか?
やらないのは自由。誰も強制しません。
でも、やらないときにこう言えるでしょうか?
「私はやらないと選びました」
もしそれが言えないなら、きっと本当はやりたかった。
でも恐れや不安や怠惰に押されて、やれなかっただけ。
「やらなかった」と「やれなかった」は似て非なる言葉。
前者は選択、後者は逃避です。
事業における「揺れ」の正体
私はこれを「揺れ」と呼んでいます。
揺れは「恐れ」から生まれる。
- 間違えたらどうしよう
- こんなに忙しいのにこれ以上無理だ
- 自分にはできないんじゃないか
でも揺れること自体は悪くない。
揺れは「選択に戻る力」を鍛えるチャンスだからです。
一番危険なのは、揺れをそのまま言い訳にしてしまうこと。
「時間がないからできない」と言った瞬間、自分の人生の舵を他人や環境に渡してしまうことになる。
経営者に問いたいこと
補助金の申請に限らず、経営は常に選択の連続です。
- 価格を上げるか下げるか
- 人を採用するかしないか
- 投資をするかしないか
やらない選択も、もちろんアリ。
でもそのときに「自分でそう選んだ」と言えるかどうか。
それが、経営者としての覚悟であり責任なんです。
結論 ― 言葉にできるかどうか
今回の出来事から私が学んだことはシンプルです。
「やらない」も選択。
でもそれを「やれなかった」と言い換えた瞬間、それは逃避になる。
私は経営者の皆さんに問いたい。
あなたが「やらない」と決めたとき、それを「自分の選択」として言葉にできますか?
時間がないのではない。
「時間をかけない」と選んでいるだけなんです。
行政書士阿部隆昭