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遺言無効確認請求控訴事件判決にみる「秘密証書遺言」の問題点|行政書士阿部総合事務所

January 9, 2015
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約 9 分

 

公証役場で作成したとしても遺言能力を否定されて遺言が無効となる場合があります。

一般の方にとっては、公証人が関与しているのだから100%大丈夫と思っていても、後でひっくり返される事態になると大変です。

何が大変かというと、こういった争いになるときは遺言者が死んでしまっているので、遺言のやり直しが出来ないということ。

 

 

 

平成18年(ネ)第2271号 遺言無効確認請求控訴事件判決理由に秘密証書遺言の問題点が分かりやすく書かれていました。

秘密証書遺言につき,遺言能力の欠如及び方式違背による遺言無効の主張が退けられた事例

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ことに原判決は,本件における最大の疑問点,すなわち,なぜ公正証書遺言ではなく,秘密証書遺言という稀な形式を選んだのかという点について全く判断していない。
 
秘密証書遺言も自筆証書遺言も,遺言内容を遺言者以外の者に秘密にするために用いられる方式であるが,自筆証書遺言は遺言者の自書が必要であるのに対し,秘密証書遺言は,遺言者が自書する必要がなく遺言者が署名,押印さえできれば作成できる方式であるから,遺言内容を秘密にすることよりも,遺言能力に疑問があって,署名,押印しかできない者の遺言書を作成するために使用される危険のある方式である。
 
また,公正証書遺言は,秘密証書遺言よりも無効となる危険が少なく検認手続も不要であるから,公正証書を利用できる場合には,公正証書遺言が選択されるはずであるのに,秘密公正証書遺言が作成されるのは,遺言者の署名,押印のみで足りることを奇貨として,遺言者の意思によらない遺言書が作成されている事実が存在することを推測させるものといえる。
 
なお,平成7年から平成17年度までの統計によると,秘密証書遺言が作成される件数は,公証役場における全遺言件数のわずか0.12ないし0.32%に止まる。
 
また,Cの遺言能力に疑問がなかったのなら,公正証書遺言か自筆証書遺言が採られたはずであるのに,秘密証書遺言の方式が選択されたのは,Cが口述不可能であったためである。したがって,本件遺言を行った事実は,Cが口述不可能で遺言能力を欠く状態にあったことを推認させるものである。

なお,D司法書士は,B公証人との事前面談で,Cは脳の手術を受けたことがあると説明したところ,同公証人は,Cと会うや,1分もたたない
うちに「難しいな」と発言した
ことからすれば,同司法書士は,公正証書遺言の作成を考えていたが,同公証人がCの遺言能力に疑問があるとして
公正証書遺言を作成できないと述べたため,作成経験のない秘密証書遺言の方式を選択したものと考えられる。
 
 
 
 
これだけ見ても、事情はなんとなく見えてきますよね。
 
こちらのPDFで全文が確認できます。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/149/035149_hanrei.pdf
 
公正証書遺言を作成できるのにあえて「秘密」を選択するということは、遺言内容を口授することが出来ず、遺言能力に疑問があるのを知っていたんじゃないのと疑われてしまうこともある。
 
秘密証書遺言作成件数にも触れられていますが、私も秘密証書遺言のお手伝いはしたことがありません。
 
おそらく、公証人の先生にとってもかなりのレアケースなので、「なぜ?秘密証書遺言?」ということになるでしょう、心象的には。
 
 
 
元公証人の成毛先生が書かれた『遺言 日本加除出版』にも秘密証書遺言の問題点が4つ列挙されています。
 
紛失・滅失のおそれがあることや、家庭裁判所の検認手続きが必要であることは自筆証書遺言についても同じことが言えるので秘密証書遺言特有の問題点ではありません。
 
 
秘密証書遺言は文字を読むことができ、自分の名前さえ書ければ、ほかに文字が書けなくても、内容を誰にも知られないで遺言ができるという利点があるが、次のような問題点がある。
 
証書の成立について争いが生じ易く、無効となる場合がある。
 
すなわち遺言書が、公証人及び証人の面前に提出したという事実は、公証人の封紙に対するその旨の説明記載によって明白であるが、遺言内容は公証人も証人も見ていないし関与していないので、方式不備を生じ、また、内容の不明確を生じ、遺言者の真意が反映できず、結局内容に対して紛争が生じやすく無効となる場合もある。
 
 
方式不備によって無効になる危険があるなどは自筆証書遺言も同じ。
 
なぜって、公正証書遺言と違って、公証人は中身にノータッチですから、その部分に関しては自筆証書遺言と全く同じなわけです。
 
遺言者本人であることを確認して、封をする、その場面だけに公証人は関与しているだけ。
 
デメリットばかりでメリットなど一つもなさそうな秘密証書遺言ですが、それなりに有用な点もあります。
 
 
日本公証人連合会のQAを見てみます。
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秘密証書遺言とはどのようなものですか? そのメリットとデメリットを教えて下さい。

A     秘密証書遺言は,遺言者が,遺言の内容を記載した書面(自筆証書遺言と異なり,自書である必要はないので,ワープロ等を用いても,第三者が筆記したものでも構いません。)に署名押印をした上で,これを封じ,遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上,公証人及び証人2人の前にその封書を提出し,自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し,公証人が,その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後,遺言者及び証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。
上記の手続を経由することにより,その遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを明確にでき,かつ,遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることができますが,公証人は,その遺言書の内容を確認することはできませんので,遺言書の内容に法律的な不備があったり,紛争の種になったり,無効となってしまう危険性がないとはいえません。
また,秘密証書遺言は,自筆証書遺言と同じように,この遺言書を発見した者が,家庭裁判所に届け出て,検認手続を受けなければなりません。

 

遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることが出来るのは、自分だけで完成させる自筆証書遺言でもほぼ同じ。
 
どっちがより秘密に出来るかというと、公証人が封をしている秘密証書遺言とはなります。
 
自筆証書遺言だったら、印鑑さえ手に入れば、封筒からちょこっと紙面を抜き出して手を入れたのち戻しておく、なんてことも出来るかもしれない。
 
でも、秘密証書遺言の場合は、封がされていますからね、公証人の。
 
 
それと、遺言者本人の確認がされているのが意外に大きなメリット。
 
もしも遺言書に自分に不利な内容が書かれていたとしたら、「これって、ひょっとしてオヤジの筆跡まねて兄貴が自分で書いたんじゃない」などというあらぬ疑いをかけられることもない。
 
遺言書の内容を見てはいませんよ公証人は。
 
でも、その遺言書を書いたその人であることは公証人が確認しています。
 
遺言書を書いたのが本人であることは確かに明白ですね。
 
 
 
とはいっても、秘密証書遺言にするのは実際のところどうなんでしょう。
 
一般の方にとっては、自筆証書遺言と秘密証書遺言、公正証書遺言の三類型があることなんて知らないのが普通。
 
ということは、「遺言書を作りたいんです」と相談を受けた専門職やコンサルタント的な立場の方がその人にあった方法をアドバイスすることになるでしょう。
 
もしもその時に、「公証人が関与するので安心です。ワープロで書いてもOK」なんて説明がなされたら一般の方としたら秘密証書遺言の危険性なんて分からないから、「おまかせします!」ってなりそうです。
 
相談を受ける専門職としても、秘密証書遺言によらなければならない特段の事情がなければ、「秘密」以外で遺言者の意思が実現できる方法を提案する必要がありますね。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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行政書士行政書士阿部隆昭
創業支援と資金調達に強い東京都北区赤羽の行政書士阿部隆昭。
事業計画書作成支援、創業融資申請サポート、補助金助成金申請、契約書作成、ビザ申請など、中小企業支援業務をメインに業務を行なっています。
業務経験20年の知見をフル活用し、クライアント様の事業運営をサポートします。