「口約束」という用語そのものも、本来は”約束は書面でするもの”、といった慣例の裏返しの言葉なのかもしれません。
民法という日本の基本法では、契約は書面でしなければならない、とは定めていません。
なので、お互いの口約束でも契約は成立してしまいます。
のですが、今度は契約内容を履行するときに問題がとても起こりやすい。
ご想像のとおり、「言った言わない」の争いになりやすいですね。
そこで、契約の内容を書面にするわけです。
このように、口約束でも成立するのが当たり前なのですが、最初から書面でしなさいという分野もいくつかあるのです。
その一つが、建設業法。
建設業は、発注者から最初に仕事を受ける「元請け」
元請け業者は、更に一次下請けに仕事を流し、
一次下請け業者は、更に二次下請けに仕事を流す、といったような重層的に業者が連なっているのが特長です。
当然ながら、元請け業者は、下請け業者よりも力関係は圧倒的に強い。
建設業界のみならず、契約の場面では両当事者の力関係によって内容が有利にも不利にもなるのが通例です。
だからこそ、契約内容の公平性を保つ必要があります。
建設業界は力関係上のバランスが偏っているのが明らかな業界です。
そこで、国のルール、具体的には建設業法が関与してくることになるのです。
建設業法
(建設工事の請負契約の原則)
第十八条 建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。
法律の条文でわざわざ「各々の対等な立場」と言わなければならないほど、現実には、対等ではない契約がされる恐れがあるという意味です。
(建設工事の請負契約の内容)
第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 工事内容
二 請負代金の額
三 工事着手の時期及び工事完成の時期
四 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法・・・
建設業法の第19条では、明文で「書面に記載し」とされているので、もはや口約束は許されません。
不適切な契約がなされないように書面での契約をすること。
実はそれだけではありません。
中央建設業審議会が、建設工事の標準請負契約約款を作成し、その実施を促しているのです。
(中央建設業審議会の設置等)
第三十四条 この法律、公共工事の前払金保証事業に関する法律 及び入札契約適正化法 によりその権限に属させられた事項を処理するため、国土交通省に、中央建設業審議会を設置する。
2 中央建設業審議会は、建設工事の標準請負契約約款、入札の参加者の資格に関する基準並びに予定価格を構成する材料費及び役務費以外の諸経費に関する基準を作成し、並びにその実施を勧告することができる。
ここまでして公正な契約がなされるように国としても配慮をしているのです。