創業計画書の「売上高」の欄で手が止まる。まだ一人も来院していない病院の数字を、どう書けばよいのか。機器の見積もりのように相手から金額が届くわけではないので、ここで悩むのは当然です。
動物病院の創業計画書では、希望する売上から逆算して件数を埋めるのではなく、診療内容、来院の見込み、対応できる人数と時間から数字を作ります。そのうえで、売上が想定より少ない場合にも支払いを続けられるかを確かめます。
最初は「1日何件」を、診療日の実際に戻して考える
一日20件なら無理なく診られる、と感じたとしても、それが開業直後に来院する件数とは限りません。対応できる件数と、実際に来ていただける見込みは分けて考えます。
新患の問診と説明、再診、処置、手術、結果説明では必要な時間が違います。獣医師一人で外来と手術を担当するなら、手術時間を確保した日の外来をどうするか。診療時間と人員を置いてみると、一律の件数では説明しにくいことが分かります。
来院の見込みは、候補地域の住宅や交通手段、周辺病院の診療内容、自院が受け持つ診療、認知してもらう方法などから検討します。勤務先での経験は強みですが、勤務先の来院数や顧客がそのまま新しい病院に移る前提にはしません。
売上の計算例は、正解ではなく前提を見つける道具です
以下は計算方法を示すだけの仮定です。動物病院の相場、実績、推奨単価ではありません。診療の必要性を超える検査や処置を前提に数字を作るものでもありません。
| 仮定 | 計算 | 月の売上 |
|---|---|---|
| 1日12件の場合 | 12件 × 8,000円 × 24日 | 230万4,000円 |
| 1日8件の場合 | 8件 × 8,000円 × 24日 | 153万6,000円 |
この二つの差は76万8,000円です。大事なのは、12件を正解として書くことではありません。開業初月から12件を見込む理由はあるか。8件だった場合、どの費用は変わらず発生するか。この問いに答えられるようにするための計算です。
平均単価も、希望額を一つ置くだけでは根拠になりません。予定する料金と診療内容の構成をもとに見積もり、手術などを別に計上する場合は通常診療の平均に重複して入れていないか確認します。月を通じた診療日数には休診日や研修予定も反映します。
開業直後と、診療が落ち着いた時期を分ける
毎月同じ売上が続く計画では、開業直後の資金不足に気づきにくくなります。認知が広がるまでの期間、新患から再診につながるまでの間、季節による診療の偏りを考え、初年度は月ごとに書いてみます。
日本政策金融公庫の創業計画書セルフチェック(収支計画)では、創業当初と「1年後または軌道に乗った後」を分けた記入例が示されています。動物病院に当てはめるなら、「半年後に増えるはず」で終わらせず、何が変わるから増えると考えたのかを説明できるようにします。
見込みどおりの場合と、件数が伸びない場合の二つを作っておくと、開業後に実績と比べられます。数字が外れたら失敗ということではなく、採用や追加投資を見直すための基準になります。
人件費は「月給×人数」の手前で、勤務表を作る
受付一人、愛玩動物看護師一人と書いても、その二人がいつ働くかで診療体制は変わります。休憩中、休日、有給休暇、採用できるまでの期間を、院長だけで埋められるでしょうか。
まず診療時間に沿って担当者を置き、その勤務時間から給与を見積もります。さらに、事業主が負担する社会保険料等、通勤費、採用費、開業前の準備・研修期間の給与も確認します。加入義務や保険料、労働条件の具体的な判断は、税理士や社会保険労務士などに確認してください。
開業後の利益を大きく見せるために、人件費を低く置くと、採用できず院長の負担が増える計画になってしまいます。雇う予定の地域で募集条件を確認し、実際に組める体制の費用を入れることが必要です。
黒字の計画でも、返済後の通帳残高は別に見る
売上から費用を引いた利益と、手元に残る現金は一致しません。借入金の元本返済は損益上の費用ではありませんが現金は減り、減価償却費は費用でもその月に同額を支払うわけではありません。売上と入金の日が違う決済方法もあります。
個人開業なら院長自身の生活費、法人なら役員報酬など、事業形態による違いも確認します。利益の表に加えて、毎月の入金と支払い、月末残高を別の表にすることで、数字の混同を防げます。
運転資金の考え方は、動物病院の開業資金と、融資・補助金の組み立て方で詳しく扱っています。補助金の予定額を初月の入金に置いて計算を合わせるのではなく、実際に受け取れる時期と、それまでの支払いを分けて検討してください。
計画書を仕上げる前に、数字の横へ根拠を書いてみる
家賃は募集資料、機器代は見積書、人件費は勤務表と募集条件、売上は診療内容と件数の見込み。各数字の横に、出典や計算方法を短く添えます。根拠が書けないところは、無理に埋めず、次に確認する項目です。
日本政策金融公庫の書式ダウンロードには創業計画書があります。様式をきれいに埋めることより、ご自身が数字の理由を説明できることが重要です。行政書士阿部総合事務所では、下書きや見積書をもとに、創業計画の作成と融資申請に向けた書類準備を支援しています。
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開業準備を、次の段階へ
執筆・監修:行政書士阿部隆昭(行政書士阿部総合事務所)。制度情報確認日:2026年9月15日。本文は一般的な検討の視点です。融資・補助金の可否や条件は、金融機関・各制度の実施機関が判断します。




