
「オーダーメイド設備なので、同じ機械を作れる会社がほかにない」「発注しない会社へ見積りだけを頼むのは難しい」。製造業の設備投資では、このような悩みがよく生じます。
しかし、中小企業省力化投資補助金(一般型)では、オーダーメイド設備であることだけを理由に、相見積りの手続を省略できるわけではありません。重要なのは、選定予定メーカーの設計をそのまま複製させることではなく、自社が必要とする機能・性能・納入範囲を共通条件として、対応可能性のある事業者へ書面で依頼することです。
この記事では、「同一条件」をどのように整理するか、見積書を発行してもらえない場合に何を残すか、業者選定理由書だけで足りるのかを、2026年9月29日時点の公式資料に基づいて解説します。
結論:オーダーメイド設備でも、原則は2者以上への見積依頼
中小企業省力化投資補助金の公式サイトは、補助金交付候補者として採択された後、発注先の選定に当たり、原則として2者以上から同一条件による見積りを取る必要があると案内しています。
現時点で公表されている最新の「交付申請の手引き(第6回公募)」では、さらに次の取扱いが明記されています。
- 見積りは口頭で依頼せず、必ず見積依頼書を作成する
- 見積対象となる設備・サービスの条件、仕様等を詳細に記載する
- 相見積りは、同一条件で2者以上に依頼する
- 契約先1者当たりの見積額合計が50万円(税抜)以上の場合、原則として2者以上の見積書を取得する
- 見積依頼書は交付申請時に提出する
したがって、「相見積りを取れそうにないから、最初から1者にしか依頼しない」進め方は避ける必要があります。
「同一条件」は、メーカー固有の構造まで完全同一にする意味ではない
オーダーメイド設備では、メーカーごとに機構、制御方法、製造工程、得意分野が異なります。選定予定メーカーの図面や独自構造まで指定すると、ほかのメーカーが見積りに参加できず、かえって価格比較が難しくなります。
公式資料は「同一条件」の詳細な定義までは示していません。一方、第8回公募要領は、一般型の対象となる設備について、申請者の課題、作業工程、事業所の構造・レイアウト等に合わせて、機能、構造、性能等が一品一様で設計・開発される機械装置・システムを想定しています。
この制度設計と見積依頼書の要件を合わせると、実務上は、メーカー固有の設計をそろえるのではなく、導入目的と、比較に必要な機能・性能・範囲をそろえることが重要です。これは公式資料の文言をそのまま引用した定義ではなく、オーダーメイド設備で比較可能性を確保するための実務上の整理です。
共通条件に入れたい項目
- 自動化・省力化したい工程
- 加工対象物の材質、標準寸法、最大寸法
- 必要な処理能力、精度、品質条件
- 設置可能な幅・奥行き・高さ、搬入条件
- 安全装置、操作方法、無人運転又は省人運転の条件
- 本体、付属品、設計、搬入、据付け、試運転、操作指導等の見積範囲
- 納期、支払条件、保証、保守
- 見積書の提出期限、提出方法、有効期限
設備の省力化効果を成立させる処理能力など、事業計画の根幹となる性能は、比較条件から外さない方がよいでしょう。一方、目的を達成できるのであれば、メーカーごとに構造や製造方法が異なっても構いません。各社の提案の違いは、技術比較表で整理します。
「見積依頼」と「見積書の取得」は別の段階
ここが実務上、最も誤解されやすいところです。
見積依頼とは、申請者から候補メーカーへ、共通条件を記載した見積依頼書を正式に送ることです。見積書の取得とは、その依頼に対してメーカーが価格や納期を記載した見積書を発行することです。
最新の交付申請手引きは、合理的な理由により2者の見積書を取得できない場合について、2者以上へ見積依頼を行った後であることを、選定理由書を提出できる条件として明記しています。
つまり、2社目が「技術的に対応できない」「納期内の製作が難しい」「当社の取扱範囲外である」などの理由で見積書を発行しない場合でも、正式に依頼した事実と、その結果を説明できる資料が重要になります。
見積書を取得できない場合に残す記録
見積書を発行してもらえなかった場合は、次の資料を一式で保存します。
- 申請者名義の見積依頼書
- 実際に送信したメールと添付資料
- メーカーからの辞退・対応不能等の回答メール
- 回答がない場合の督促メールと送信日
- 電話回答しか得られなかった場合の日時、相手方、回答内容の記録
- 候補メーカーを選んだ理由
- 各社の技術対応可否を整理した比較表
- 最終的な発注先を選んだ理由を記載した業者選定理由書
ただし、最初から断りの回答を得ることを目的に、明らかに対応できない会社へ形式的な依頼をするのは適切ではありません。設備分野、加工方式、過去の製作実績等から、対応可能性があると合理的に考えられる候補先を選び、実際の取引候補として依頼します。
「オーダーメイドだから」という業者選定理由だけでは足りない
交付申請手引きは、「オーダーメイド設備のため」という説明だけではなく、なぜその発注先に依頼したのかを説明するよう求めています。また、単に以前から付き合いがある、アフターフォローが充実している、機密情報の漏えいが心配、商業習慣である、近隣に候補がない、といった理由は、合理的理由として認められない例に挙げられています。
合理的理由として示されているのは、知的財産権や独占販売権など、販売元が限られることを客観的に確認できる事情です。設備の特殊性を説明するときも、単なる主観ではなく、次のような客観資料で組み立てる必要があります。
- 必須性能に対する各社の対応可否
- 設置寸法や対象物寸法への適合性
- 要求する処理能力と品質の実現可能性
- 既存ラインとの接続・連携条件
- 納期内に設計、製作、据付け、検収できるか
- 特許、独占販売権、専用部品等の客観的資料
事務局から、技術比較表、提案書、プレゼン資料、既存システムとの関係図や連携概要等を追加で求められる場合もあります。
実務で進めやすい5段階
- 必須条件と希望条件を分ける
省力化効果や設置可否を左右する条件を必須とし、メーカーごとに提案できる部分を残します。 - 候補メーカーを広く探索し、予備照会する
公開情報や製作実績を確認し、正式依頼前に取扱分野や窓口を確認します。 - 申請者名義で正式に見積依頼する
同一の要求仕様書を添付し、送信メールと添付資料を保存します。 - 回答と経緯を記録する
見積取得、辞退、対応不能、納期不適合、無回答を区別して整理します。 - 価格と技術の両面から選定理由を作る
最低価格ではない会社を選ぶ場合や2者分を取得できない場合は、客観資料を添えて理由を説明します。
採択後に慌てないため、応募段階から準備する
相見積り・業者選定は、公式サイト上では採択後、交付申請前の工程です。しかし、オーダーメイド設備では、要求仕様の整理、候補探索、秘密保持の確認、現地確認、見積作成に時間がかかります。
応募段階から、比較可能な要求仕様、候補先、見積有効期限、納期を見通しておくと、採択後の交付申請を進めやすくなります。ただし、前回の記事で解説したとおり、契約・発注は交付決定通知を受けた後に行います。
製造業の設備投資補助金・実務シリーズ
- 採択前発注と交付決定の違い
- オーダーメイド設備の相見積り
- 見積期限切れと再見積り
- 既存設備故障時のつなぎ策
- 不採択後の事業計画検証
まとめ
オーダーメイド設備であっても、原則として、同一条件で2者以上へ見積りを依頼します。「同一条件」は、メーカー固有の図面や構造を完全にそろえることではなく、導入目的、必須機能、性能、設置条件、見積範囲等を比較できる形に整理することが実務上のポイントです。
2者目から見積書を取得できない場合も、依頼自体を省略してよいわけではありません。申請者名義の見積依頼書、送信記録、相手方の回答、技術比較表、業者選定理由書を一連の証拠として整えます。
行政書士阿部総合事務所では、オーダーメイド設備の要求仕様整理、見積依頼書、候補先への依頼記録、技術比較表、業者選定理由書まで、交付申請を見据えて支援しています。設備の特殊性を理由に相見積りを諦める前に、ご相談ください。
参考にした公式資料
※本記事は2026年9月29日時点の公式資料を基にした一般的な解説です。同日時点では、第8回公募の交付申請の手引きは公表されていないため、現在の公式手続フロー、第8回公募要領及び公表済みの最新の交付申請の手引き(第6回公募)を参照しています。実際の交付申請では、申請対象となる公募回の最新資料及び事務局の案内をご確認ください。



