
補助金を申請中なのに、更新予定の既存設備が故障した。生産を止められないので、新しい設備を先に発注できないか。製造現場では切実な問題ですが、中小企業省力化投資補助金(一般型)は、いかなる理由でも交付決定前の事前着手を認めていません。
この場合、申請対象設備を先行発注するのではなく、補助金の手続と、足元の生産を守る「つなぎ策」を分けて管理することが基本です。
この記事では、2026年9月29日時点の公式資料を基に、交付決定までに検討できる現実的な対応と、補助対象設備の発注と混同しないための記録方法を解説します。
結論:新規設備は交付決定まで発注せず、生産維持策を別契約で進める
第8回公募要領は、交付決定前に発生した経費を補助対象外とし、「いかなる理由であっても事前着手は認められません」と明記しています。現行機の故障や生産停止のおそれがあっても、申請対象設備の発注、契約、手付金の支払、製作開始等を前倒しする根拠にはなりません。
したがって、補助金の設備導入は交付決定後に正式発注する一方、当面の生産維持は現行機の修理、外部委託、工程変更等を自社負担の別取引として検討する、という二本立てで進めます。
「採択」と「交付決定」の違い、禁止される先行行為については、「採択前に発注できる?」で詳しく解説しています。
つなぎ策は、補助対象経費ではなく事業継続の判断として整理する
第8回公募要領は、過去に購入した設備に対する作業費用や、補助対象でない設備に対する費用を補助対象外としています。既存設備の修理や通常業務を維持するための費用を、申請中の新規設備の補助対象経費へ混ぜないことが重要です。
つなぎ策は「補助金で認めてもらう経費」ではなく、会社が生産を維持するために自社負担で選ぶ経営判断として整理します。実施前には、顧問税理士等と会計処理も確認してください。
検討できる主なつなぎ策
1.現行機の応急修理・部分修理
完全復旧が難しくても、交付決定後に発注する新規設備が稼働するまでの期間に限定し、安全に運転できる修理範囲をメーカーへ確認します。修理対象は、現行機の名称、型式、製造番号、故障箇所、作業内容で特定します。
2.一部工程の外部委託
ボトルネックとなる工程だけを協力会社へ委託できれば、生産停止を避けられる場合があります。委託単価、運搬費、品質確認、納期、機密保持、委託可能数量を確認します。
3.工程・シフト・在庫の組替え
受注の優先順位、既存在庫、他工程の余力、作業時間帯を見直し、故障設備への集中を避けます。品質や安全を損なう無理な手作業化は避け、変更内容を現場と共有します。
4.代替設備の短期レンタル等
市場に適合する代替設備がある場合は、短期レンタル等も候補になります。ただし、申請対象設備の購入と一体の予約、将来の売買代金への充当、製作枠の確保等に見える条件は避け、契約内容を慎重に確認します。
新規設備の取引と混同させないための5つの分離
- 対象物を分ける
現行機の修理と新規設備を、型式・製造番号・仕様で明確に区別します。 - 見積書・発注書を分ける
修理、外注、レンタル等を、新規設備の見積りや契約に含めません。 - 支払を分ける
つなぎ策の費用を、新規設備の手付金、予約金、値引き又は将来代金の一部にしません。 - 目的を分ける
「既存設備の生産維持」と「補助事業による新規設備導入」を社内決裁でも区別します。 - 証拠を残す
故障状況、修理内容、委託範囲、契約期間、支払記録を保存します。
「補助金を守るか、生産を守るか」の二者択一にしない
判断に必要なのは、先行発注の可否だけではありません。新規設備を補助金なしで購入した場合の負担、採択時に見込まれる補助金額、交付決定までの想定期間、正式発注から納入までの期間、修理費、外注費、停止による逸失利益を並べて比較します。
新規設備がオーダーメイドで納入まで長期間を要する場合、今すぐ先行発注しても直近の停止リスクは解消しません。それにもかかわらず補助対象外となるリスクは確定します。納入までの全期間を見通して、修理、外注、在庫、工程変更を組み合わせる必要があります。
メーカーとは発注前に何を進められるか
交付決定前でも、拘束力のない範囲で、仕様確認、見積書の更新、納期見込みの確認、搬入条件の調査等を進めることは可能です。ただし、「仮押さえ」等の名称であっても、メーカーに製作義務が生じる、キャンセル料が発生する、手付金・予約金を支払うといった内容は、契約・発注と判断されるおそれがあります。
製造業の設備投資補助金・実務シリーズ
まとめ
既存設備が故障しても、申請対象の新規設備を交付決定前に発注することはできません。しかし、申請を諦める必要があるとは限りません。
新規設備の導入手続と、現行機の修理・外部委託等の生産維持策を分け、対象、契約、支払、目的、証拠を明確に区別します。設備の納期まで含めた資金・生産計画を作ることが、補助金と事業継続の両方を守る実務です。
行政書士阿部総合事務所では、事前着手の該当性、交付申請までの工程、見積り・契約資料の切り分けを整理し、設備投資を実行できる形へつなげます。
参考にした公式資料
※本記事は2026年9月29日時点の公式資料を基にした一般的な解説です。実際の契約・取引が事前着手に当たるか、経費をどのように処理するかは、個別の契約内容と最新資料を確認して判断してください。


