「○○には相続をさせたくない」という方向だと、なかなか話しは単純ではない。
それでも財産が潤沢にあるのであれば、問題は起きにくいのでしょうけど。
めぼしい財産が自宅不動産のみで、二人の息子のうち婚姻後疎遠になってしまった次男坊には一切相続させたくない
こういった事例は割と普通にあります。
法律上の相続人の中には「遺留分」という謂わば法律が保証してくれた相続分を持っている人たちがいます。
第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
「兄弟姉妹以外の相続人」である被相続人の子供は、その遺留分をもっている人なんですよね。
ということは、遺言書で「全財産を長男に相続させる」としたところで遺留分がある次男から減殺請求(自分の相続分に見合った財産をくださいという意思表示のこと)がされてしまうと、結局のところ次男は財産を相続できることになってしまう。
第1031条(遺贈又は贈与の減殺請求)
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
この遺留分は相続が発生する前に放棄することができます。
被相続人が亡くなっても遺留分は主張しません、という意思表示です。
第1043条(遺留分の放棄)
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
遺留分の放棄を定めた民法1043条のとおり、放棄するには家庭裁判所の関与が必要になってきます。
いくら父親といえども、本人が納得していなのに「放棄」をさせることは出来ないので、この方法では長男だけに相続させたいという要請を叶えることができません。
「相続欠格」(後掲民法891条)としての要件を満足しそうもない次男坊に対して、その要請を実現できそうな制度としてもう一つ、「相続廃除」の手続きがあります。
第892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
「遺留分を有する推定相続人は」とあります。
次男坊には遺留分があるので当てはまっています。
大丈夫。
そして、被相続人の子は相続となる(後掲民法887①)ので、「相続が開始した場合に相続人となるべき者」にも該当しています。
ところが、892条にあるように父親を虐待したとか、手に負えないような非行があったとかじゃないと廃除が認められません。
そういった事情がない場合には、相続廃除の手続きは使えないですね。
相続欠格者でもなく、相続廃除が出来そうもない遺留分権利者に対して、相続分を全く渡さないというのは難しい。
重要な財産、例えば分割の難しい不動産とか、収益を生み出す賃貸物件などは長男に相続させ、次男には預金だけ相続をさせる遺言書を遺す、といったような工夫をすることも必要になってくるのかもしれません。
参考判例(最判昭41・7・14)
遺留分権利者が本条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、いったん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずる。
第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
第887条(子及びその代襲者等の相続権)
被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。